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「エナジーが続く限り描き続ける」大阪のグラフィティシーンに迫るトークセッションをレポート

更新日:2023年12月29日



大阪のグラフィティシーンには独自のカルチャーが形成されている。その土台を築いた重要人物であり、日本を代表するグラフィティライター・VERYONE氏。2023年12月23日(土)に実施された「トークセッション 大阪とグラフィティ」では、VERYONE氏と今回の企画展示「GRAFFITI IN OSAKA」のキュレーター・沓名美和氏、そしてアドバイザーを務めたVOYAGE KIDS サカモト氏が対話を重ねた。ここではトークセッションの一部をレポートする。


「今グラフィティを始めるなら、先輩がいるのが普通。でも、自分が始めた頃は地元に誰もいなかった」

VERYONE氏は、インターネットが徐々に普及し始めた1996年からグラフィティの道に進む。自ら国内外の情報を取得して海外のグラフィティライターとコンタクトを取り、1999年頃からアメリカやヨーロッパ、韓国、タイ、フィリピンなど海外に渡って世界のライターと関係を構築しつつ自身のスタイルを確立していく。そのネットワークは広く、どの国に行っても「知り合いの知り合いが必ずいる」という。世界からグラフィティライターを迎え入れることも多く、「とりあえずVERYに連絡しろ」とされているそうだ。


VERYONE氏はグラフィティ専門誌「HSM」を2004年から発行している。世界のグラフィティアートやライターへのインタビューなど、国内外のグラフィティシーンを知ることができる充実した内容だ。今回の企画展示は、キュレーターの沓名美和がその丁寧にアーカイブされたグラフィティに感動したことがきっかけの一つとなった。


展示では、VERYONE氏が大阪・寺田町で2020年から運営するショップ「STOPOVER」が再現され、壁一面に描かれた新作やVERYONE氏の制作風景を伝える貴重な映像が展示されている。また、1997年以降のVERYONE氏のグラフィティのアーカイブも壁一面にびっしり展示されており、スタイルの変遷を伺える内容となっている。







グラフィティは「名前を売るゲーム」

「グラフィティは名前を売り、名前を読ませるゲーム。だから『なんで日本人なのに日本語を書かない』と言われることがあるけど、あえてそうしています。日本語だと読める人が限られるから。でもその迷いが出ている時期があって、カタカナで「ヴェリィ」と描いていたこともある。パワーワードを描く時もあります。『大嘘の世界』は大ウケしましたね」

アーカイブ展示では、「VERY」や「ヴェリィ」、「大嘘の世界」「ざけんな」など、道ゆく人に現実を突きつけるような言葉も確認できる。


反響が大きかった「大嘘の世界」 きっかけは、そう叫ぶおじさんに遭遇したことだった

VERYONE氏は、グラフィティライターとして公に顔を出すことはない(トークセッションは撮影不可)。顔を見せないのは、イリーガルな制作環境に置かれている背景もあるが、グラフィティに臨むマインドによるものが大きい。


「顔が見えてしまうとつまらない。作品の隣に、作家の写真があるのはダサいんです」

「名前を売るゲーム」であるグラフィティは、それ自体がライターを体現するもので人物像を想像させるもの。作品を観た人と実際に会うと、「想像と違う」と言われることも多いそうだ。



「ライターの視点を体感してほしい」グラフィティの表と裏を見せる展示

グラフィティを単純な「落書き」と見る人もいるかもしれない。しかし、その制作過程に思いを馳せたことはあるだろうか。画材の確保。防犯カメラが設置されていない地域のリサーチ。安全に描ける場所の選定。天候に左右され、暗闇でペイントすることも珍しくない。そこには間違いなくライターを突き動かすエナジーがある。

VERYONE氏による展示の隣には、そうしたグラフィティの制作過程をイメージさせる、®寫眞の展示が広がる。



実際に路上の物が持ち込まれた空間となっており、バリケードで囲われた中には梁が設置され、実在するグラフィティを撮影した写真が展示されている。

「VERYさんの作品が完成した表面であるのに対し、®寫眞の空間は制作過程を描いている」とアドバイザーのVOYAGE KIDS サカモト氏は言う。

「グラフィティライターの視点を体感できるような空間を重視しました。ライターが作品を描く時は衝動によるものが大きい。写真や路上の物が、目の前に来た時の感覚を味わってほしいですね」

「SNSなどの表面的な写真では伝わり切らない。リアルだから迫ってくる力がある。体験ですよね」と沓名氏。




「真剣にやっている」無比のエナジーが原動力

長年グラフィティの世界に身を置くVERYONE氏は、検挙されていく仲間たちを度々見てきたという。大阪のアメリカ村は、グラフィティ全盛期は街全体がホットスポットだったが、今では防犯カメラばかりの街となり、制作エリアを見つけるのも簡単ではない。文字通り、命懸けで制作してきたことが伺える。沓名氏からグラフィティを続ける原動力について問われると、次のように答える。

「結局、真剣にやっているんです」

シンプルで強い言葉が会場に響いた。

「描き続けて捕まるリスクはあるんですけど、真剣にやっているから。やめるという考えはないですね。エナジーが続く限り。20代は特にすごくて、ある韓国人から『VERYのエナジーはヤバい』と言われたことがあります。ペイント行って飲みに行ってペイント行くとか普通でした。でも、今はそのエナジーないんですよ。今はペイント行って飲みに行って、寝ます(笑)そのせいか、若手のバックアップをしていくことも考えています。まさか自分が裏方に回るとは思ってもなかったんですけど」




若手のバックアップも視野に大阪でコミュニティづくりを続ける

グラフィティライターのキッズによる作品について問われると、VERYONE氏は「深みがない。作品が薄い」と指摘。

「今は情報が多く、制作ツールもネットで調べられるし、Instagramで世界中のスタイルを見つけられる。いいツール、いい情報で描ける。結果、模倣したものが多いんですね。苦労していない。『アメリカの流行に影響を受けているな』とか、パッと見たらすぐにわかる。オリジナルに行き着く前にやっている。憧れだけでは続かない。でも、10年以上続けていくことでオリジナルが生まれていくかもしれないので、それぞれに頑張ってほしいですね」と語った。


「大阪には面白いコミュニティがいっぱいある。今は若い人たちの描く場所や集まる場所をつくってバックアップしていきたいという気持ちが湧いてきています」


大阪のグラフィティシーンを体感できる『GRAFFITI IN OSAKA』は、「Study:大阪関西国際芸術祭 Vol.3」のメインとなる展覧会『STREET 3.0:ストリートはどこにあるのか』を構成するプログラムの一つ。船場エクセルビルにて展示されている。同会場の他の展示と併せて鑑賞していただきたい。 1月28日(日)まで会期延長


『STREET 3.0:ストリートはどこにあるのか』


船場エクセルビル

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